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「言える訳ないだろ? だって……」
亮は会話を止め、閉じていた目を開く。
手摺りに捕まっている腕をピンと張り、空を見上げる。
「だって……何だよ?」
俊哉は問い掛け、ゆっくりと立ち上がる。
出来ればあの手を今すぐに掴みたい。
けれどそんな事をすれば、亮は今すぐにでも……。
「なんでもねぇよ。お前には分かんねぇよ! ハハッ」
月の光りが亮の顔を照らし出す。
そして、俊哉の脳裏に忘れもしない、あの映像が蘇る。
あの時の“吉川なな”の最期の姿を。
「さぁ、時間だ。俊哉、俺の願いを叶えてくれて……」
それはスローモーションのようだった。
両手を広げ、まるで今から大空に飛び立つ鳥のように、亮の体が消えてゆく。
「ありがとうな……」
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