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壁に掛かった振り子時計はいつもと変わらず小気味よいリズムを刻んでいた。
ボーン、ボーン、ボーン
鐘は三つ。
天窓からは柔らかな月明かりが差し込み、深い碧で統一された室内とトパーズを散りばめたシャンデリア、そして放心したような少女の横顔を照らし出している。
「まただわ……」
重たい体を引きずり起こしベッドの縁に身を預けると、アリーシアは静かに溜め息を零す。彼女はここ数日同じ夢に悩まされていた。
見た事の無い暗黒の景色、慈しむ様に少女を抱いた美しい少年。
覚えのない場所と覚えのない少年と少女。だが、知らない筈なのに何故だかとても懐かしいという思いに支配される不思議な感覚。
その夢はいつも、二人が泉へと身を沈めた後、静けさに包まれた森に視点を写した瞬間に終わりを迎える。
夢から覚めるといつも物凄い喪失感に捕われており、頬には幾筋も涙が伝っていた。
深い闇に溶け込んでしまいそうな漆黒の翼を纏う少年。
少しの汚れもない純白の片翼を纏う少女。
森の中は血生臭さに覆われていたのに不思議と恐怖は感じなかった。
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