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 六、七、八。彼等は最早空と同義だった。針は無視する事が出来たし、何時の間にか、手を繋いで、寄り道だってした。  彼女は、色々なものを生み出し、彼は何時もそれに驚く。まるで、魔法使いだ、と彼は思う。彼女が不意に折れる事もあったが、彼は、その度に彼女を励ました。  彼は思うのだ。彼女に取って恩返しに映ってくれれば良いと。  彼女が引っ張ってくれている。そして、その優しさは、感じた事のないものだったのだから。彼に取って。  九、十。時は、着実に進み、彼等もまた成長していた。確かに隔離されている。彼は、彼女のみを案じ、彼女は、その数倍も彼のみを案じているのだ。彼は、彼女の髪を精一杯愛でていただけだが、彼女は、更に彼の心を愛でてくれた。揺らぎようのない何かが、彼等を纏い、誰から見ても、それは明らかなようだった。  十一。限界。彼は、隣で何時も笑っている彼女を欲した。そして。  十二。彼等はひとつになった。 「私、幸せだよ。君は?」  閉鎖された空間で、彼女は言った。 「俺も幸せ。何時までも一緒に居ようね。俺が君を守るから」  彼も、返した。 「ばか。私が守るの! 君は弱いんだから、私が守ってあげる」  彼女は、彼の背中を撫で、そのひとつひとつに口付けをする。 「幸せになろうね。人の何倍もッ! 幸せになる権利は、誰にでもあるの。ただ、それに気付かないだけなの」  啜り泣くようなその声に、思わず彼も泣いた。嬉しかったからではない。嬉し泣きがこの世に存在する。その事実に彼は泣いたのだ。  彼は、何時までも十二に留まっていたかった。けれど、留まり過ぎてもいけなかったのだ。何周でもすれば良かったように思う。今となっては。  一。彼女の心は解り得ない。  二。彼は、また、一人になった。  歪めていた時間。それは濁流のように彼に押し寄せる。解りきった事だ。  短針は三十分毎に彼を突き刺し、長針は一分毎に彼を突き刺し、秒針は一秒毎に彼を突き刺す。解りきった事だ。  最早、時の番人だった彼女は居ないのだ。彼女は、彼の分の時間まで管理していた。彼女が去った理由は、そこにあるのでは無いか、と彼は考える。  ひとつでも大変な事を、ふたつ抱える事は、事実上不可能なのだから。
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