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「よしッ! じゃあ帰れ。後は任せろ。お疲れさん」 「お疲れ様です」  去っていく坂巻を見送ると、彼も片付けを終え、唯一のドアに向かう。  談笑をしている同僚に、挨拶をしながら颯爽と。 「お疲れ様です」 「今日は帰るんですか? 良いなあ」 「環、帰るのか。お疲れさん」  予測はしていたが、注目度は鰻登りのようだ。何時もより絡みが強い。何より池田の一言が胸に残る。 「せんぱーい。約束忘れないで下さいよ」  彼は早速忘れていた。 「ああ、また今度な」  三時から、三時十分までの短い休憩の時である。  今度、池田を飲みに連れて行かなければならなくなった。勿論、彼の奢りで。三時になった瞬間に駆け寄ってきた池田。その目が俄かに本気だったので、彼は少し悪い気もしたが、仕様がない。彼だって渇いているのだ。  彼はドアを開け、二階の踊場に出る。同僚達が、グループに別れて仲良く談話をしていた。世間話が好きなのだ。皆。  彼はそれの種にされそうな気配がしたので、短く切って階段を下りた。皆に囲まれては堪らない。 「あッ先輩! 待って」  そう言ったのは、佐々木だろうか? 彼はその声を無視して階段を下り、右手にあるロッカールームから靴を突っ掛け、タイムカードを差し、今は流石に閉じられている外への扉を開放した。  夕暮れ時の風景は同じように見えて、何時も少し、違う。  光のニュアンスが違うのかも知れない。 彼は眼前に広がる駐車場に自分の車を見付け、煙草に火を点けながら歩く。最早拘束は解けたのだから、どこで煙草を吸おうが彼の自由である。敷地内禁煙の看板を無視するのも、また、何時もの事。  ふと、胸ポケットから取り出した携帯を開くと、メールが一件入っていた。  お風呂に入ってから行きます。七時前には行けると思います。  この短い文面に、ハートマークが四つ。正直、目が眩む。  彼は、待ってます、とだけ打ち、暫くした後に語尾にハートマークをひとつ添え、返信した。  部屋も片付けなければならないし、買い出しもしなければ。  彼はそう思いながらラパンに乗り込みエンジンを掛け、車を走らせていった。  六時。彼は、途中で最寄りのスーパーに寄り、発泡酒、安い日本酒を皮切りに、酒と肴を大量に買い込んだ。莓ワイン、甘めの酎ハイは香苗の為のものだ。
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