466人が本棚に入れています
本棚に追加
「…なんか……懐(なつ)かれちゃったみたいだよね?菜摘ちゃん」
そう耳打ちするように小声で囁くと香苗は、少しいたずらそうにフフッと含み笑いを漏らしながら私を振り返った。
「それじゃあ、これから彼と約束あるから!!先行くねぇ~~バイバァ~イ!!」
すると香苗は、ヒラヒラとそのほっそりと白い手を柔らかに振りながら、物腰も軽やかに遠ざかって行ってしまった。
…――なっ懐かれちゃってるって…
しかも私の事、置いてってるし――…
「かっ……香苗――…」
今まで、『菜摘ちゃん、菜摘ちゃん!』と私の後を健気に追いかけてくれたその香苗の姿は、今はもう遥か遠い過去の記憶と化してしまった…
「はぁ……」
なぜだか少しだけ、心の中に吹き荒れる秋風をヒシヒシと感じて俯く私の肩を
「じゃあ、僕と一緒に帰りましょうか?」
そう言って孝史君が、まるで子犬が尻尾を振っているかのような愛くるしい笑顔を湛えながらさり気なく掴んでいた。
.
最初のコメントを投稿しよう!