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 それ程までに、村田の絵の出来映えは素晴らしいものだった。  構図は、ただイルカが中央で水面から飛び跳ねている図。何の変哲も無い、無難な構図の筈である。だが。  ……なにこれ。凄い……!   正に写実的。彼が、今までに見た友人の全ての作品を、瞬間的にそれは凌駕していた。  最早、生きているように思えた。その絵の方が、先週に行ったばかりのショーよりも、リアリティを感じたのである。  彼は、その芸術とも言える出来映えに、生まれて初めて、人が何かを成し得るのだ、と感じずには居られなかった。気付けば、村田をもっと好きになっていた。 「上手いね!」彼は言った。  村田ははにかんだように笑い、「上手くないよ」と言った。  村田の絵は、その後、産業文化祭なるもので、特選だか入選だかを取ったようである。
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