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 彼が村田憲広なる人物と初めて出会ったのは、千九百八十四年の事である。  村田は、東北から、小学校四年の時に引っ越してきた。  初めて先生に連れられて、教台の前で挨拶をした時、同級生は、一様に笑い転げてしまった。かく言う彼も。  村田は訛りが強く、そして、何度も何度も言葉を言い直すものだから、先生を始め、皆嘲笑の様相強く、村田の顔は真っ赤に染まっていたのである。 「いや、宜しくお願いします」  村田がそう言い終わり、最後列の席に座るのを見届けた彼は、何だか得も知れぬ好奇心を覚えた。純粋に興味を持ったのである。  彼は、ホームルームなるものを見届けて、先生が退出するのを見計らうと、猪突猛進、窓際、ロッカーの手前の席に走っていき、「宜しく! 僕は佐藤!」と自己紹介をし、あの頃、ビデオゲームが流行っていたので、「君は何のゲームをするの?」等と初対面にも拘わらず、ペラペラと質問を投げ掛けた。彼は当時、人見知りを一切せず、正に急進的である。  村田は、一瞬狼狽したようだったが、……緊張してるのかな? 少しずつ、少しずつ彼の問いに返事を返していく。  そのまま、一時限の休憩、二時限の二十分。三時限の休憩、昼休み。彼は、毎回村田の所に行き、一体何の話があったというのか? あれやこれやと質問を投げ掛け、貴重な情報を俄かに得た。いや、何の事はない、同じマンションに住んでいたのだ。  確かに、何日前かに引越のトラックが来ていたのは、知っていたのだが――彼は、その時近所の仲の良い友達と、マンションの、大きい駐車場で、野球をしていた。メンバーは、何時も彼を含め三人しか居なかった――よもや、それが村田だとは及びもつかなく、彼は、運命的な何かをその偽らざる童心に感じざるを得ず、その日、給食も無かったので、早速彼は遊ぶ約束を取り付けたのだった。 「学校近いのな」 「うん! 近いよね!」  学校も終わり、下校する彼と村田。学校からマンションまでは十分弱と、近い距離にある。
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