宇宙の果てまで捕まえて

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 人が両手いっぱいに鶴を抱えて道行く人の好奇の視線に晒されながら持ってきたというのに、当の受取人である彼女、遠野恵美は俯いたまま一度も千羽鶴に視線を合わせなかった。 挙句の果てに先の言葉である。  秋穂が委員長として彼女を一人放っておけないのは分かるけれど、それにしたってあんまりな態度だとは思う。 だけど当の本人である秋穂が純粋に心配している姿を見て、それでも遠野さんに小言を言うなんてことはできない。 僕はどうすることもできずに、帰る準備だけを万端にして感情のすれ違う二人のやりとりを見ていた。  遠野さんは五月から現在の二月に至るまで約九ヶ月、この病院に入院していた。病名とかは知らないけれど、これだけ入院が長引いているのだから相当に重い病気なのだろうな、とは思っていた。 裏を返せば、僕が彼女について知っているのはそれだけで、当然見舞いにだって一度も来たことがない。 体育の時間はいつも木陰から見学していた姿しか記憶になく、肩まで伸ばした髪が意図せず恐怖を演出してしまうくらいに、彼女の肌は白かったことだけを覚えている。  やがて今日はこれ以上いてもどうにもならないと悟ったのか、秋穂が少々疲れた顔で僕に微笑む。 秋穂がこの笑顔を見せるときは殆どがギブアップのサインなので、僕は黙って秋穂の鞄を脇に抱えた。 「それじゃ、遠野さん。また来るね」  それでも遠野さんに対しては明るい声をかけると、秋穂は僕のほうへと駆けてくる。僕は一度だけ彼女に会釈すると、返事も待たず病室のドアに手をかけた。 「待って」
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