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真っ白な病室に、やや高めの声が静かに響く。
秋穂が目を丸くして僕と遠野さんを交互に見ているが無理もない。
秋穂の言葉をあれだけスルーしていた遠野さんが自発的に言葉を発したのだ。僕だって
少しばかり驚いてしまった。
そんな僕らを気にもせず、彼女はマイペースに言葉を紡ぐ。
「えっと……君」
「え?僕?」
「そう、君。君とも話がしたいの。二人で」
青白い指先は、しっかりと僕を指していた。どうしたらいいか分からない僕に、更にどうしたらいいか分からないであろう秋穂は目尻を少しだけ下げて僕と遠野さん二人に笑いかけた後、自分の鞄を僕から奪い取ってそそくさと病室を後にした。
「逃げた……」
色々とマズイ意味合いが込められた言葉を言ってしまったが後の祭り。
恐々と遠野さんの方を振り向くも、彼女は別段気にもしていない様子で先ほどまで秋穂が座っていた椅子を指差した。
座ったら?ということらしい。
後から秋穂に根掘り葉掘り聞かれることも考えて、覚悟を決めて椅子に腰掛ける。両親が毎日来ているのか、ベッドの脇には綺麗な花が花瓶に生けてある。
個室ゆえに話し相手もいないのか、棚には文庫本がかなりの数積み重ねられているが、視線に気づいた遠野さんが隠してしまった。
自分の趣味嗜好を知られるのが嫌なのだろうか。なんとなく悪いことをしてしまった気分になって、彼女に視線を戻す。
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