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「立てるか」
そんな思考を遮るためなのか、手を差し伸べる青年を、少女は虚ろな瞳で見上げながらも、介助されながらようやくの事で立ち上がる。
「……ありがとう、ございます」
まだよく回っていなさそうな思考で、それでもお礼を述べようとする少女に、青年が苦笑いを浮かべる。
「別に。俺は何も……していない」
「帰ります」
ふらふらと、覚束ない足取りで路地裏から出ようとする少女の背中を、ただ冷ややかな視線で見送る。
青年はそれ以上、少女に関わる事をしなかった。
それどころかその場に留まると、先程自らの手で壊した欠片を丁寧に拾い集めていく。
「……やれやれ。哀しいねぇ。何もあの歳で、自分を"殺す"事もないだろうに」
拾い終わったそれを、懐から出したハンカチで包んでしまうと、口笛を吹きながら青年も歩き出す。
「ま、何にせよ。――任務完了、だ」
呟き、ハンカチを上着のポケットに捩じ込む様は、まず怪しい人にしか見えない。
だが、そんな事すら気にする風もなく、闇の中へと紛れて行った。
後には静寂だけが残るのだ。
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