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「大体よぉ。ここきて契約が成立した時点で、相手からは破壊の許可もらってんだよ。つか、そっちこそ人が破壊してきたもん、持ち主の許可なく修理していきやがって。お陰でこっちは良い迷惑だ」
がしがしと髪を掻き上げながら、つらつらと文句を言ったところで中年男性が、ぐっと言葉に詰まる。
それを良い事にして、青年が続けた。
「最近なんかは、顧客の中から詐欺だっつー苦情も出てんだぞ。俺が破壊した端から修理して、また金ふんだくるつもりだろうってな。てめぇ、俺達とグルだと思われてんぞ」
ものの見事な反論には、さすがの中年男性もぐうの音が出ないらしく、最初の勢いも消沈してしまい、そのまま黙り込んでしまう。
「って訳だから、もう二度と事務所にくんな。さっさと失せろ」
「破壊するばかりが、解決方法じゃあない筈だよ」
まるで犬でも追い払うみたいに、わざとらしく立ち上がり、事務所のドアを開けて退出を促した青年に対して、納得出来ない様子の中年男性が食い下がる。
「……」
「君は、そうやっていつも、何でも破壊して、それで満足なのかい……?」
「お前には一生分かんねぇよ。……誰にだってなぁ、壊したいくらいに、消し去りたい記憶や物、過去があるのさ」
「分かった。ごめん。もう、帰るよ」
あくまでも意見を変えない青年に、項垂れた中年男性が立ち上がる。
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