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ドアを開けると、往生際悪く立ち止まり、肩越しに呟いた。
「またくるよ」
「もうくんな」
すかさず返す青年に、中年男性を歓迎する意思など見えない。
しかし中年男性も、それ以上の反論をせず、事務所を後にする。
「ったく。毎回毎回、飽きねぇのか、あの馬鹿は」
「少なくとも一ヶ月に四回はやってますもんね。しかも毎回同じ台詞」
中年男性が事務所から退室した途端、それまで貝のように押し黙っていた瓶底眼鏡がくすりと笑う。
余程同じ理由で訪問しているようで、この事務所で先刻のようなやり取りは、既に日常化しているようだ。
「あいつ、暇なのか?」
「何言ってんスか。ヒジョーに残念な事に、こっちの仕事よか、あっちのが流行ってるらしいっスよ。それをわざわざ邪魔する意味が分からず」
「……」
律儀というか、丁寧に答えてくれながらも、益々以て笑い出す瓶底眼鏡に、半ば呆れた表情の青年が唸る。
「マジか。世も末だな」
「こっちのが明らか世の中の役に立つっつーのにねぇ?」
パソコンから片時も目を離さずにいて、先刻から何をやっているのかは不明なのだが、とにかく手元も高速で動いていて、何だか気持ちが悪い。
「取り敢えず塩撒くか」
台所へと姿を消した青年が、茶色いツボを片手に戻ってからドア開け、盛大に塩を撒き散らす。
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