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「さぁて。仕事するか」
デスクに戻り、座ると書類の山に手を伸ばす。
「まぁ、手強い依頼人ばっかだなぁ」
「しゃちょーなら楽勝っしょ」
独り言にそう返すのは瓶底眼鏡の方だ。
「苦労するのは、私達の方ですわ」
次いで、ストレートヘアの女性が笑いかけてくる。
「はぁ。お前ら、気楽で良いねぇ」
「気楽っス。自分ら所詮、雇われの身っスから」
「そうね。でも、仕事ですから、私達は全力でサポートします」
力になるんだか、ならないんだか分からないフォローの仕方だが、二人が青年の事を信頼して、そう言っているのは理解出来るのだろう。
「うぃ。いざという時は、頼むぜ」
「らじゃっス」
「了解しました」
立ち上がり、山積みの書類から一枚、狙ったような手付きで取り出す。
「さぁて、行きますか」
「いてらー」
「社長からの御要請、お待ちしております」
事務所は街外れの一角に位置しており、外に出ても人の姿などは容易に見られない。
いつくのは住む家もなく、雨風を凌ぐ場所を探し、廃墟に彷徨く者や、怪しげなクスリを手に、にやつく怪しげな輩ばかりだ。
その中を縫うようにして青年が歩いて行く。
胸ポケットに差していたサングラスをかけ、にやりと笑う。
「仕事の時間だ」
青年の姿は、そのまま廃墟が織り成す闇へと溶け込んだ。
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