◆1◆ 古びた廃虚

10/11
前へ
/150ページ
次へ
《たぶんココだろ》 さっき覗いた窓は、入り口の左側にあった一番近い窓だった。 だから、一番手前の十字路の左側の一つ目の扉に入ることにした。 ――ガチャリ―― 恐怖は薄れたものの、まだ安心しきれない俺は慎重にドアを開け部屋の中に進入する。 そこには外から見たまんまの内装があった。そして、テーブルの上にはしっかりと携帯が置かれている。 《よっしゃ、ビンゴ!!》 机に近づき、埃まみれになった携帯を手に取る。メールが一件、友人からだった。 内容は中学の仲間で久々に集まろうという物だ。 高校も入学して2年になる、懐かしい友人に会えるのが楽しみでニヤついた。 携帯を閉じ、折角なので、もう来る事の無いであろう部屋の中を観察してみる。 薄汚れた部屋は外から見えた様にベッドに机に椅子、本棚と生活感を漂わせている。 …まあ、埃や蜘蛛の巣だらけではあるが。 観察を終え、部屋を出ようとドアノブを回して扉を開けた。すると、 ――バサバサバサバサ―― という羽の音と共に、黒い物が1つ近づいて来ると、俺の手元から携帯を奪い去って行った。 「……えっ?」 一瞬の事に目を見開いて呆然とする。 「俺の……ケータイ……」 この台詞を言うのは昨日と今日で、一体何度目だろうか。 羽の音と黒い体から、良くは見え無かったが、カラスではないかと思われる。 すると、 ――ゴトッ―― という鈍い音が上の階から聞こえてきた。状況から、さっきの黒いの(多分カラス)が床に携帯を落としたと考えるのが妥当であろう。 「……はは、まじかよ」 何だか独り言が増えてきたなと思いつつ、限りなく気が進まないが、とりあえず2階に上がる事にした。 お化けや妖怪ならともかく、カラスならそんなに怖くもない。 《光物好きってゆうしな》 白い光沢のある俺の携帯は、格好の餌食になったのだろう。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加