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「実は――――……」
少しの沈黙の後、重い口を開いてアルトが喋り始めた。
「君の『血』は他の人間の物とは少し違うんだ…」
……血が違う?訳がわからず不思議そうな顔でアルトを見ると、彼は静かに続けた。
「なんてゆうか…普通の人間の血は、僕たち吸血民族の生きていく為の栄養素みたいな物なんだけど、
『癒し』の効果を得る事のできる、極めて稀に存在する物があるんだ。
1滴飲めばどんな大怪我も一瞬にして治る、奇跡の血。
その幻しの血は、いつだって僕らを優しく包み込んで癒してくれる、
月の光のような存在という意味あいで『夜の月』と言われてるんだ。
………大輔君の血は、正にその『夜の月』そのものなんだ。」
《………………俺の血が、吸血鬼にとっての奇跡の血?》
「へぇー、何か俺の血って凄いんだなー!!」
なんて関心しながら、普通の何処にでもいる人間だと思っていた自分が『特別』だという事実に、ちょっとした喜びを感じていた。
―――が、実際はそんなに喜ばしい事ではなかったようだ。
「大輔君…」
と苦笑いをしながら、アルトは確かにそうだけど…、と言葉を続けた。
「つまり、君の血は他の人よりもずっと狙われ易いんだ。
味が物凄く美味しいらしいから、まず『狂求血者』に見つかれば、必ず食いついてくるよ。
…『狂求血者』だけじゃない、普通の吸血民族だって幻の『夜の月』を求める者は沢山いるんだ。
裏で、『夜の月』を持人間が、かなり高額で取引きされてるって話を聞いた事もあるし…」
そこまで聞いて、俺はやっと事の重大さに気がついた。
つまり、俺は他の人間の数百倍、死と隣合わせな体質らしい。
「いや…でも今まで17年間生きて来たけど、
そんな危険な目にあった事一度もなかったし………
俺の血『夜の月』じゃないんじゃね?」
そうだ、きっとそうに違いない。
というか、正直そうだと思いたい。
そんな命の危険に晒されるような『特別』なら、ない方がましだ。
しかし、アルトはそんな俺を見て、残念そうに首を横に振る。
「大輔君も聞いたよね?さっきの『狂求血者』が、
君から『凄く美味しそうな匂いがする』って言ってたの。
彼女達は、血に対して凄く敏感なんだ。だから間違いないよ、君の血は『夜の月』だ…」
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