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現れたのは、見覚えの無い女子生徒だった。
黒い髪を左右でみつあみにして、今時珍しい瓶底めがねをかけている。
制服もピッシリ着ていて、スカート丈は膝下、分厚い本を両手で胸の前で抱え持っていた。
彼女は俺達を見ると、ふいっときびすをかえして元来た道を戻って行ってしまった。
「あんなヤツいたっけ?」
問いかけてきた純の言葉に首をかしげる。あんな生徒いただろうか?
6クラスある学校の中で、知らない人間がいてもおかしくはないし、学年が違えば分からなくても仕方ない。
「さあ…誰だろ?」
ただ、あんなに地味な格好をしているのに…というのは偏見かもしれないが、
とても姿勢が良く、立ち姿が懍としていたのが印象的だった。
「もしかしてここ、使いたかったんかなー?」
と言う純の言葉に、なんだか申し訳ない気分になった。
「俺達以外にこの場所知ってるヤツいたんだな」
言いながら昼飯を食べ、教室に戻って、腹が膨れた後特有の眠気に耐えつつ、つまらない午後の授業を聞いていた。
《ねみー…》
瞼が閉じそうなのを堪え、頬杖をつきながら黒板を見る。
今は数学の授業だ。厳しそうな顔付きに、メガネをかけた白髪混じりの数学担当教師が数式を黒板に書いていく。
後ろからスースーという寝息が聞こえるところをみると、間違いなく純は眠っているのだろう、ばれたら不味いな…。
ボーッとそんな事を考えながらふと、窓の外に目をやると…見えてはいけない物が目に入ってきた。
そこにあってはいけない物、いる筈のない物…
いや生き物が、窓の外にある木の隙間から垣間見えた。
通常よりも何倍も大きな体をしているコウモリ…そう、そこにいたのはチップだった。
「ッッッチッッ!!」
―――ガタッ
と椅子を鳴らし思わず立ち上がる俺を見て、
「ちっ…どうした見上?」
思わずチップ!と叫びそうになったが堪えた俺の言葉に、数学教師が尋ねてきた。
後ろで寝ていた筈の純も、驚いて起きたのか、目を丸くしてコチラを見ている。
クラス全体の視線が一瞬にして自分に注がれた。正直、死ぬ程恥ずかしい。
「超、腸が気持ち悪いんで保健室行ってきます…」
くだらない親父ギャグみたいになってしまった事に後悔しつつ、
「1人で大丈夫か?」
と言う問いにハイ、と答え、俺は教室を飛び出して行った。
「…元気そうだな」
と、数学教師はポツリと呟いた。
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