母の詩

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さらさらと流れる風が、ふわりと髪をさらっていく。 そう遠くない空で、真っ白な羽を広げて飛ぶ鳥が、柔らかい声で啼いた。 吸い込まれそうなほどに蒼い空を仰いで、肩に掛かった髪を払う。 再び風が吹いて、緩やかな丘になった草原を町の方へ駆けてゆく。 目下に広がる、白を基調とした建物が並ぶ町の真ん中。 一際高い時計塔から、仕事の終わりを告げる鐘の音が町の先に広がる水平線へ広がった。 それを合図に私は歌いだした。 かつて母に歌って貰った、優しい声の子守唄。 胸に手を当てて、空を見上げて言葉を紡ぐ。 遠く、遠く、遥か水平線の彼方まで。 声そのものは届かなくても、せめて、この胸に秘めた想いだけは届くようにと。 頭に浮かぶ母の顔。 いつも優しく微笑んでいた。
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