金曜日に狐を拾う

14/19
前へ
/69ページ
次へ
 まっすぐこっちを見て断言する苑に、春喜は頭をかいて困り顔をする。  「・・・あの、それ、いつの話だっけ?」  「多分、十年くらい前のことだと思います」  「・・・十年、ねぇ」  春喜は何か思案するように天井を見上げた。  「十年前、狐だった私は、空腹で今にも死にそうになってました」  春喜をどうにか繋ぎとめようと、苑は続けて話す。  「その時、あなたが私にお菓子をくれたんです。多分、遠足かなんかで買った程度の少ないものでしたけど」  春喜はふと苑を見た。  「それでも、私は嬉しかった。そのくらいでも、生きる希望になった。生きられたんです」  まっすぐ過ぎる瞳。正面から春喜のことを見、信じて疑わない心が疑える。  だから、春喜は言いづらかった。それでも、言わなければならない。  「・・・えっと、俺は確証ないんだよね。そのことさ」  「・・・」  「あったかも知れないし、なかったかも知れない。覚えてないのか、まず俺がそんなことしたのかもわからない」  苑は怒ったり泣いたりするかと思ったが、案外普通に黙って座っていた。  じっとこちらを見つめて。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

160人が本棚に入れています
本棚に追加