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「・・・じゃあお言葉に甘えまして」
徐々に笑顔が戻ってきた苑は、ぱたぱた小走りでそこを離れた。
一体何事かと思っていると、苑はすぐに帰ってきた。
その手には、どこから持ってきたのか、落ち着いた柄の着物一式。
「えへへ、これくらいならいいですよね?」
春喜は震えながら、一応値札に手を伸ばす。
じっくり考慮したあと、結局苑の頭をはたいた。
「お前はまず金銭感覚を覚えろ」
「きゃんっ!」
結局、春喜はなるべくリーズナブルなのを苑に選んでやった。
「・・・それからあとは・・・」
苑に遠慮なく荷物を全部持たせ(しかし苑は平気な顔をしていた。かなりの重さのはずなのに)、次の生活必需品を買いに行こうとする春喜だったが・・・。
おもむろに足を止めた。
苑がそれに気が付いて振り返ると、春喜は神妙な顔をしていた。
「春喜さん、どうしたんですか?」
「いや・・・俺は、この先には行けない」
「? 何訳のわかんないこと言ってんですか。ほら、早く行きましょうよ」
苑が先を促すものの、春喜は一向に動く気配がなかった。
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