5人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「…ぃ…さん…
にぃ、さん…?」
舌足らずな、柔らかい声。
「もぅ…にぃさんてば!
どうしたの?きゅうに、
ぼ~っとしちゃって…」
春に咲く、野花の匂いが。
甘く、青く、ほのかに香る。
「あ…!どこかイタいの…??
ケアル、しようか?」
清水湧く泉のように。
青く澄んだ、あどけない目。
案ずるように見上げてくる、
人形のような愛らしい面立ち。
『あ…ううん…大丈夫だよ。
心配させてごめん』
「じゃあイタいとこ、
ないんだね?よかったぁ」
安堵の顔で私に微笑む、
愛しい弟。
泣き虫で。甘えたがりで。
芯の強い、優しい弟。
『ありがとう』
小さな身体を、そっと抱く。
子供らしい、
ミルクのような甘い匂い。
布越しに感じる、温かな柔肌。
…天使みたいだ、なんて、
柄にも無い言葉が浮く。
『お前は、優しいな』
無垢な瞳に微笑みかけ、
指で優しく髪を撫でた。
絹糸のような銀髪は、
陽光に照らされて。
雪解けの雫のように、穏やかな輝きを湛えている。
その清らかさが、眩しくて。
…謀らずも、微笑むように目が細まる。
「えへへっ…にぃさんにほめられちゃった」
くすぐったそうに照れ笑い、
薄桃色に頬を染める。
緩く包んだ腕の中で、
そうして私にはにかむ姿も、
本当に愛くるしい。
「ねぇ、にぃさん。
もう…はしれる?」
ややあって、腕の中で身動ぐと。
弟が問いかける。
『うん?大丈夫だよ?どうしたんだ?』
「えっと…ぼくね、
にぃさん、と…
おにごっこしたい」
「…ダメ、かな?」
おずおずと、要望を紡ぎながら、
伺うような上目遣いは。
ふわふわと緩く波立つ
銀髪も伴って、
まるで仔犬か仔猫のようで…
『ううん、そんな事無い。
一緒に遊ぼう?』
「ほんとう?やったぁ~♪」
嬉しそうににっこり笑う、
無邪気な姿を。
ずっと愛でていたくなるのを、
ぐっと堪え…
ようやく腕から、解放してやる。
『じゃ、まずは
鬼を決めないとな』
「うんっ!じゃんけんだね!」
背を屈めて目を合わせると、
悪戯な笑みに似た、
挑むような目を返された。
意外に負けず嫌いな面に、
少年らしさをひしと見受ける。
「いっくよぉ?
じゃん、けんっ…」
幼い闘志に光る瞳が、拳を握る腕を、振る。
昼下がり、陽光注ぐ草原に。
風に乗り、白い綿毛の群れが、飛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!