白詰草

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「…ぃ…さん… にぃ、さん…?」 舌足らずな、柔らかい声。 「もぅ…にぃさんてば! どうしたの?きゅうに、 ぼ~っとしちゃって…」 春に咲く、野花の匂いが。 甘く、青く、ほのかに香る。 「あ…!どこかイタいの…?? ケアル、しようか?」 清水湧く泉のように。 青く澄んだ、あどけない目。 案ずるように見上げてくる、 人形のような愛らしい面立ち。 『あ…ううん…大丈夫だよ。 心配させてごめん』 「じゃあイタいとこ、 ないんだね?よかったぁ」 安堵の顔で私に微笑む、 愛しい弟。 泣き虫で。甘えたがりで。 芯の強い、優しい弟。 『ありがとう』 小さな身体を、そっと抱く。 子供らしい、 ミルクのような甘い匂い。 布越しに感じる、温かな柔肌。 …天使みたいだ、なんて、 柄にも無い言葉が浮く。 『お前は、優しいな』 無垢な瞳に微笑みかけ、 指で優しく髪を撫でた。 絹糸のような銀髪は、 陽光に照らされて。 雪解けの雫のように、穏やかな輝きを湛えている。 その清らかさが、眩しくて。 …謀らずも、微笑むように目が細まる。 「えへへっ…にぃさんにほめられちゃった」 くすぐったそうに照れ笑い、 薄桃色に頬を染める。 緩く包んだ腕の中で、 そうして私にはにかむ姿も、 本当に愛くるしい。 「ねぇ、にぃさん。 もう…はしれる?」 ややあって、腕の中で身動ぐと。 弟が問いかける。 『うん?大丈夫だよ?どうしたんだ?』 「えっと…ぼくね、 にぃさん、と… おにごっこしたい」 「…ダメ、かな?」 おずおずと、要望を紡ぎながら、 伺うような上目遣いは。 ふわふわと緩く波立つ 銀髪も伴って、 まるで仔犬か仔猫のようで… 『ううん、そんな事無い。 一緒に遊ぼう?』 「ほんとう?やったぁ~♪」 嬉しそうににっこり笑う、 無邪気な姿を。 ずっと愛でていたくなるのを、 ぐっと堪え… ようやく腕から、解放してやる。 『じゃ、まずは 鬼を決めないとな』 「うんっ!じゃんけんだね!」 背を屈めて目を合わせると、 悪戯な笑みに似た、 挑むような目を返された。 意外に負けず嫌いな面に、 少年らしさをひしと見受ける。 「いっくよぉ? じゃん、けんっ…」 幼い闘志に光る瞳が、拳を握る腕を、振る。 昼下がり、陽光注ぐ草原に。 風に乗り、白い綿毛の群れが、飛んだ。
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