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この燃え上がるような紅蓮の髪に、澄み渡るような空色の瞳の少年…
ヒムカ・サラはその伝霊師への登竜門である、王立ルサリス学院の入学試験の真っ只中であった。
入学するための年齢制限で13歳までに試験に合格しなければ学院には入れない。
彼は今年で13歳…まさに崖っぷちの最後の受験であった。
そんな中、難関の学科を合格したのは奇跡的なもので、本人も母親も嬉しさのあまり泣きそうだ。
「母さん!俺、学科受かったよ!」
「うんうん!偉いぞヒムカ!後は実技だけだ!」
「実技…かぁ」
先程まで爛々と輝かせていた瞳は一気に消え、不安そうな顔になる。
「どうしたんだい…ヒムカ?」
訝しむ母親にヒムカは無理に笑うと、合格通知を手に握りしめ、勢いよく椅子から立ち上がる。
「俺、先生に知らせてくるよ!」
勢いよく食堂から出ていったヒムカの後ろ姿にマーサは苦笑した。
ヒムカと母親のマーサはいわゆる母子家庭で、マーサはこのリクエ村で食堂を開き、女手ひとつでヒムカを育ててきた。
今では美人女将として板についたマーサだが、そこまで店を切り盛り するのは並大抵な苦労がかかっただろう…
マーサはため息を漏らすと、出ていった息子の元気な後ろ姿に13年の月日を重ねた。
「もう…13年もたつのか…早いものねぇ…」
「どうだい!女将…もうここいらで俺と所帯を…」
「馬鹿言うな!俺が女将を幸せにするんだ!てめぇは引っ込んでろ!」
「んだとテメェ!」
不毛なやり取りはいつものこと。
常連客は面白そうに男達の無駄なアプローチを見世物みたいに観ている。
マーサはさらりとアプローチを無視すると再び調理場に戻る
「…本当…馬鹿な子。自信がないと無言になるところや、無駄に努力家なとこなんか父親に似ちまって…」
クスクスと笑いを漏らすと左手の薬指の小さな指輪にマーサは微笑みをこぼした。
「…どうか受かるように…あんたも祈ってて…?」
そう言うとマーサは唇を寄せた。
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