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シリウスが入るとヒムカ以外の四人は、恭しくシリウスに一礼する。
ヒムカはそれを見て、慌ててペコリと頭をさげた。
「…座りなさい。詳しい説明をしよう」
シリウスは静かにヒムカ達を促し、それぞれ椅子に座るの確認すると、上座の椅子にゆっくりと腰掛け、一同を見渡すと口を開いた。
「王室、政務庁、元老院の決定をここにいる全員に、通達する。」
その言葉に、みな固唾を飲んで黙って次の言葉をまつ。
「私たち国はヒムカの存在を暫く臥せる事になった。」
『!』
「つまり…5人目の福音子が存在することを臥せるというのですか…?」
キルシュの質問にシリウスは首を横に振る。その表情はどこか堅い
ヒムカに向ける瞳はどこか戸惑いを帯びている。王宮で何かあったのだろうか…彼がこれほど感情を表情に出すのは珍しい。
しかし、あまり接する事がない子供達やモーゼス学院長は気づかないようだ
「いや、5人目の福音子が存在する事は神殿から発表される。ヒムカがその5人目だと言う事実を秘匿する。それが我々の見解だ。」
「あ、あの…理由をお聞きしても」
緊張しておずおずと尋ねるフィンシアにシリウスはメガネの位置を直し、冷ややかな視線を向けた。
「ヒムカの立場はかなり危ういからだ。」
「ヒム君の立場…よく分かんない。だって立派に水霊王の加護があるんでしょ?」
テトの疑問は最もだ。過去に農夫の子が地の福音子だった事もある。身分うんぬんの問題ではない。福音子の役目は唯一身分が関係ない。
既に今代の福音子であるシリウスに認められ、神殿もヒムカの存在を福音子であると認めている。
なぜ隠れなければいけないのだ。
「…確かにヒムカは立派な福音子だ。しかし、皆が皆それを受け入れるわけではない。5人目の福音子は不吉だと考える頭の堅い連中がいるのも事実だ。」
「…今朝の会議中にも、ヒムカ君を即刻神殿に幽閉し、取り調べるべきだと言う者もいたほどです。」
モーゼスは嘆かわしいと、額に手を当てる。
神霊王の加護を受けている以上、不吉な存在であるはずないのに、前例がないだけで不吉だと決めつける者達の頭の堅さには辟易する。
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