Drive

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ハイドの呪文は、そのワンフレーズでは止まらなかった。 二文、三文と重ねられる言霊。 レイは思わず目を見開いた。 『レイジングは、少しずつその呪文が露わになる』 そんな常識さえ、才能の前には無意味だと言うのだろうか。 流石に「ずるい」と思ってしまう。 しかしハイドが普段見えないところで鍛えていたことを知るレイとしては、その一言で片づけるのには抵抗があった。 だけど、とレイは思う。 努力する天才を前にして、凡人に何ができるのだろうか。 努力すれば報われる。 そんな言葉(もの)は、所詮幻想でしかないのか。 そこまで考えて、レイは自嘲気味に笑った。 ――当たり前だ。 だからこそ、勝者と敗者が生まれる。 『努力は必ず報われる』 そんなものは一握りの勝者の戯言なのだと、レイははっきりと確信した。 世の中には、報われない努力の方が圧倒的に多いのだろう。 自分の鍛錬も、その中の一つなのかもしれない。 そう思うと、つい目頭が熱くなる。 全て、無駄に終わるのかもしれない。 そんな考えが、今更になって浮かんでくる。 ――それでも、たとえ、そうだとしても。 レイは刀を握る手に力を籠めた。 わずかとはいえ、可能性はあるのだ。 自分の行いが『報われる努力』になる可能性は、低くとも、確かに存在するのだ。 諦めれば、本当に零になる。 それだけは、嫌だった。 ハイドの詠唱が止まる。 天を仰ぐ彼は、どこかすっきりとした表情をしていた。 そして、ついにその呪文は紡がれる。 「――レイジング」 ハイドの魔力が、嵐のように吹き荒れた。
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