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アーメリアル王国。
西側を海に、残る三方を山に囲まれた世界最大の経済大国であり、隣接するベルーガル帝国と並び最も科学技術が進歩している国でもある。
その国の首都、グランダールでは高層ビルが立ち並び、文明の進歩をまざまざと見せ付けているようである。
そんな大都市の中に、一際高いビルがあった。
そのビルの入口の自動ドアのすぐ横には、筆で縦に『防衛軍』と書かれた木の板が取り付けられていた。
その自動ドアを、黒いスーツに身を包んだ黒髪の青年が通って行く。
精悍な雰囲気を持つその青年の歳の頃は恐らく二十代半ば。
ツンツンに立った短髪に、一筋だけ垂れた前髪。
一言で言えば『好青年』という言葉が当て嵌まりそうな彼は、ビルに入るや否や急に何かを思いついたらしく、少し目を見開いて眉を吊り上げる。
次の瞬間、青年は点いている電球が消える時のように一瞬で、まるで最初からそこには誰もいなかったかのように、ぱっとその場から姿を消した。
「んだよ。中では転移が自由なんじゃねえか」
『アーメリアル防衛大臣事務室』と書かれた木製の厳かな扉の前に何の前触れもなくいきなりぱっと現れた青年は、顔をしかめて毒づいた。
青年がぶつぶつ文句を言いながら扉をノックすると、中から「入れ」と低くしがれた声が返って来る。
青年がその声に従って中に入ると、その部屋の奥には大きな机の向こうに腰掛けている老人の姿があった。
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