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暗闇で包丁を振りかざす。
もう、これで苦悩から逃れられると思ったら、不思議と怖くはなかった。
迷わず、包丁を振り下ろす。
躊躇って中途半端な場所を刺すよりは、一撃で急所を捉えたほうが親切だと言うものだ。
と、自分に強く言い聞かせた。
「さようなら、お母さん」
思わず、目を閉じる。
不思議と手ごたえがなかった。
「……っ」
深見芳江は、びくりと肩を揺らし顔をあげた。
ダイニングのテーブルに突っ伏したままいつの間にか眠っていたのだろう。
悪夢の余韻に気分が悪くなり、頭を抱える。
「ただいま、芳江」
夫、圭一がコートを脱いだ姿でそこに立っていた。
今、仕事から帰ってきたのだろう。ぼんやりした頭を動かし、時計を見たら、11時を回っていた。
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