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物心付いた時、私には親と呼べる人なんて居なかった。
ううん……、物心が付いたと同時に捨てられたと言った方が正しいんだと思う……。
顔も名前も知ってる。
だけど、想い出は一つも無い……。
ただ、一つ覚えているのはあの言葉だけ。
『さようなら、リリィア』
冷たかった……、この言葉……。
久し振りに母親から告げられた言葉がそれ……。
そして、それが最後の言葉。
訳も解らないまま、私は古びた木造の家の前に立たされていた。
それが誰の家なのかなんて知らない。
なのに、私はその前で立ち尽くしている。
そんな私に、何の説明もする事無く去って行く母親……。
でも、私はそれを追おうとは思わなかった。
直感で解っていたから。
『捨てられた』という事実に……。
そして、暫く途方に暮れていた私に、目の前の家の中から出て来た女の人が何も言わずに中へと招き入れてくれた。
本来だったら、私はその中に入らなかったと思う。
だけど、捨てられた衝撃からか、私はその人に付いて行くようにして広い家の中へと入っていた。
それが『孤児院』なんだという事は、入ってから直ぐに解った。
私と同じように、絶望している子達が沢山居たから。
口に出してはいないけど、その眼が語ってた。
『親に捨てられた』って。
『だから悲しいんだ』って。
でも、私はその子達と違って悲しくなんてなかった。
だって、私は親から愛情なんて物を貰った記憶が無いから。
薄々、いつか捨てられるって事に気付いていたのかも知れない……。
その所為か、私の顔は無表情に見えたみたい。
「……まだ状況が理解出来ていないのね……」
後ろを歩く私を見て、可哀相とでも言うように呟く女の人。
……違う。
状況なんて理解してる。
ただ、私はどうでも良いって思ってるだけ。
でも、それは口にしない。
私が何を言ったって、親は何も返してくれなかったから。
だから、私の訴えは無駄なんだって知ってる。
そうやって、心の中で答えていた私は、いつの間にか広間と思われる場所にまで移動していた。
そんな私の前には、私と大して変わらないと思われる子達が集まっていた。
一見してその子達から受ける印象は『悲しそう』の一言。
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