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さっきHRのチャイムが鳴っていたから、廊下には生徒の影も見えなくなっている。 先生が戸を開けると中のざわめきが一層大きくなった。 先生が先に入って転入生が後に続こうと一歩足を踏み入れた瞬間。 「はーちゃん!?」 聞きなれた声が一際大きく教室に響いた。 全員の目が一斉に橘を見る。 しかし橘の目は転入生に釘付け。 クラスメートの視線も転入生に移り、全員が一様に同じ顔をした。 それは。 驚愕。 俺も初めて転入生を見た時に同じ顔をしたはず。 職員室の前で。 いや。 昨日、商店街の中で。 コロッケ男はこいつだと確信した。 「そんないきなり懐かしいあだ名で呼ばないでくれる?恥ずかしいから」 目の前の男の肩が小刻みに揺れているのが近くに居る俺には分かった。 「あははははははっ」 盛大に笑い出した転入生とは対照的に橘の顔が見る見る朱に染まっていく。 「呼んだこっちの方が恥ずかしいわ!っつか、いち!お前、知ってたな!?」 柴田の机の横に立っていた橘は平然とした顔をして座っている柴田に噛み付いた。 「だったら、なんだ」 手に持った小説から目を外そうともせず、柴田は興味なさ気に言い放つ。 完璧に置いてきぼりをくらわされた教室中の生徒が事の成り行きを見守っていたが、先生が手を叩いた音でガタガタと自分の席に着き始めた。 「はーい。説明するから、みんな席に着け」 俺も転入生の手を振り解いてヒョコヒョコと席に向かう。
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