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「トイレに行ったんじゃなかったのか?」
隣の席からボソボソ話しかけてくる長谷川を横目で見やり頬杖をついた。
「トイレの前で先生に捕まった」
俺が楽しく会話をする気分じゃない事を悟ったのか、長谷川はそれ以上話しかけてはこなかった。
クラスメートのほぼ全員が興味津々で柴田と転入生を見比べている。
「今日から、このクラスに仲間入りする事になった柿沼 一(かきぬま はじめ)だ。みんな仲良くするように」
「柿沼一です。よろしく。苗字違うけど、そこにいる柴田一茶とは双子なので同じ顔してます」
軽い調子で言った自己紹介。
教室中から喚声が上がった。
色めき立つ女子たち。
どよめく男子たち。
顔を上げようとしない柴田と、柴田に威嚇するように視線を送り続ける橘。
柿沼一と名乗った転入生。
柴田と同じ顔で、柴田のしない表情をする。
柴田は、あんな人懐っこい笑い方はしない。
こうして見ると全然、似てないかも。
昨日あれだけ悩んだのに、ふたを開けてみれば事実はとても単純で。
「柿沼の席は・・・武藤!」
「はいぃ?」
考え事に没頭していた俺は急に名前を呼ばれて上ずった声が出てしまった。
クスクスと笑い声が聞こえる。
最悪・・・。
「柿沼の席はお前の隣だ。右側空いてるだろ。クラス委員としても、しっかり面倒見てやれ」
「改めて、よろしく」
歩いてきた転入生、柿沼が席に座って笑いかけてくる。
「どうも」
この顔にドキドキしてしまうのは条件反射だ。
ぶっきら棒になる返事の言い訳は心の中だけでしておいた。
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