その壱

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女はいつだって、捨てられた目をした、小さな動物、そんな存在に弱いものだ。  彼もまた、然り。  ただ、この少年は、“最初の一言”で、私に性の要求(らしきもの)をぶつけてきた男、いや、雄でもある。  その事が頭にありつつも、私の心には隙があった。  いくつかの現実的な問題が、私を安心させていた。  近所に住んでる高校生。 その親とも顔見知り。  そして、ひどく痩せた身体…-  「良かったら、…うちで何か、食べてく?」 こんな華奢な少年が、何か出来るはずもない、そう思い、私は部屋の鍵を開けた。  「……」 「どうしてたの?やめとく?」 口をつぐむ少年に、言いながら笑いかけてみる。  「いや、てか、…いいんですか、?」 彼は、少し遠慮がちに私を見つめ、そこで一旦言葉を区切った。  「実は、…すげぇハラ、減ってるんです」 そう言って、思い切り笑顔を見せた。  その顔は純粋で美しかった。  私は、彼の笑顔に、ひどくときめいた。  「なに、作ろうか。何か食べたいものがあったら、言ってね」 私は胸の高鳴りを抑え、ゆっくりと部屋の扉を開く。  「おれ、なんでも食います、嫌いなものとか、ほとんどないんで」  そう言って、私の顔をじっとみつめる。  「お姉さんが作ってくれるんなら、なんでも、ほんとに」 それは確かに、まだ幼さの残る、おとなしい瞳を持つ少年だった。
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