その壱

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考えてみれば、おかしな話だ。 彼は、私の名前も知らないらしい。  それなのに、あの要求をぶつけてきた彼は、“経験”もまだ、無い、きっとそうだろう。  だれでもいいから寄り掛かりたかったのか。  (私だって、この子の名前も知らないっていうのに) 軽率に、部屋に男を入れた事実、それが、子どもであろうとなんであろうと…- 例え何も無いにしても、この光景を誰かに見られたとしたら、白い目で見られるのは自分の方だ。  私は彼の後ろ姿、 -その意外に広い背中と、若者特有の甘い匂いに酔いながら、部屋用の己の眼鏡が、赤でなかったことを悔やんでいた。  靴を脱いで部屋に上がり込んだ少年を見届け、私は、その内鍵を閉める。  その音は、妙に大きく響き渡り、私の中で燻り続ける、罪の意識を鮮明にさせた。
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