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紅い花びらが風にさらわれた粉雪のように、絶え間なく大地へと降りそそぐ。
薄暗いようでいて、煌々(こうこう)と明るい。そんな奇妙な空間に、少年はいた。
立ったまま縄で樹木にくくりつけられた幼い体には、数え切れない程の傷や痕がある。
それが人の手によるものであるのは、誰の目にも一目瞭然だった。
「なにを、しているんだい?」
突然自分にかけられた何者かの声に、少年はのろのろと顔を上げた。
乱れた紅髪の下にのぞいているのは、髪よりも鮮やかな深紅の双眸。
久しぶりに聞いた人間の声に、少年は口端を引きつらせた。
それは笑っているつもりだったが、他者から見れば、ただ傷の痛みに口を歪めただけにしか見えない。
「いみなんて、ない」
少年は声の持ち主に向かって、掠れた声を返す。
いっそ笑えてすらくる。一体今の自分は、どんな姿をしているのだろうと思った。
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