◆序◆紅き森

2/7
73人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
 紅い花びらが風にさらわれた粉雪のように、絶え間なく大地へと降りそそぐ。  薄暗いようでいて、煌々(こうこう)と明るい。そんな奇妙な空間に、少年はいた。  立ったまま縄で樹木にくくりつけられた幼い体には、数え切れない程の傷や痕がある。  それが人の手によるものであるのは、誰の目にも一目瞭然だった。 「なにを、しているんだい?」  突然自分にかけられた何者かの声に、少年はのろのろと顔を上げた。  乱れた紅髪の下にのぞいているのは、髪よりも鮮やかな深紅の双眸。  久しぶりに聞いた人間の声に、少年は口端を引きつらせた。  それは笑っているつもりだったが、他者から見れば、ただ傷の痛みに口を歪めただけにしか見えない。 「いみなんて、ない」  少年は声の持ち主に向かって、掠れた声を返す。  いっそ笑えてすらくる。一体今の自分は、どんな姿をしているのだろうと思った。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!