嫡子、魔力無し。

2/3
50人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
新月の夜、ある家庭で赤子が産声を上げていた。 「オギャァ!!!オギャァー!!」 元気な産声は、その赤子の周りの人々の表情を和らげた。 「元気な男の子ですよ。旦那様。」 初老の侍従服を着た女性が、皺を深めて笑いかけた。 「ああ。良くやったな……メイヤ。」 「うむ………我ながら頑張ったと思う。 しかし、バクラ………あの痛みに頑張れとは無責任だったぞ!!」 赤子の母親、メイヤは父親でこの館の主のバクラに少し意地の悪い言葉を吐いた。 「…………そう虐めてくれるなよ……」 苦笑のバクラは横になったままのメイヤの頭を撫でる。 それをメイヤは恥ずかしそうな顔を見せるもおとなしくしていた。 「旦那様………そろそろ、ご子息様のご様子をお確かめになっては?」 「うむ…………そうだな……」 「む………すまない……」 2人は同時に気まずそうに俯く。 そして、バクラが赤子をゆっくり抱き上げる。 「可愛いな………口元はメイヤ似で………」 「目付きの悪さはバクラ似だろう?」 「………グッ!!………」 メイヤの鋭いツッコミにバクラは押し黙る。 自分でもそう思ってしまった故の事だろう。 「オホン………さてさて……お待ちかねの魔力測定に移るか。」 「………む……上手く話を反らされたな……」 「気にするな。 それよりバアヤ。紋章剣を持ってきてくれ。」 「此処に。」 バクラは、シレッとメイヤをいなすと、バアヤに剣を取り出させた。 「紋章剣………生まれたての赤子に施す契約呪。 魔力に同調し、媒介となって魔法を酷使するツルギ。 我が子はどの様なツルギに形を成すのだろうか………」 バクラは光悦の表情で呟くと、紋章剣を我が子に突き刺した。 「っ!!………オギャァー!!!!」 「なっ!!?」 バクラは慌てて、紋章剣を引き抜く。 剣先には血が滴り、傷口からはトクトクと血が流れ出ていた……… あまりの出来事に全員が言葉を失い、赤子の泣き叫ぶ声が特に痛々しく響いた………
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!