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夜。闇に閉ざされたロンドンの街を、一人の少女が跳んでいた。
まるで背中に翼でもあるかのようにビルの屋上から屋上へと跳躍を繰り返す。その度に、纏っている白色の服と特徴的な蒼い髪が月光に照らされ淡く輝く。
数回の跳躍の後、彼女は一際高いビルへと飛び移り、数十メートル離れた地表を見下ろした。
眼下の通りに明かりは少なく、また人通りも皆無だ。否―――
「……見つけた」
その通りを、人では到底届かない速度で走り抜ける人がいた。
それを見て少女―――シェリス・フィア・アルフォネットはその人間と同じ方向へと跳躍を再開する。そして数度の後、ビル群から足を外し、勢いよく通りへと跳び込んだ。
数十メートルの高さを、勢いのついた状態で落ちていく。
普通の人間ならまず助かる余地はないだろう。しかし、彼女にとってその程度の高さから落ちることなど些細なことだった。
地に足が着く。それは、通りを走っていた者の10m程前。
「くっ……!」
突然の少女の登場に驚き足を止める。それによって街灯の光が完全にあたりその姿が露になった。
20代前半の容姿に黒髪黒眼の青年。その男はシェリスと同じ服を纏っていた。
シェリスが振り返り、男と対峙する。
「同伴者となるフリをして侵食していたか」
冷静……否、冷徹な声。感情の籠っていない声でシェリスは男に話しかける。
「貴様らにはわかるまい……。先に生まれし我らが受けた侮辱など!」
それとは対照的に男は声を荒げ怒りを露にする。
「何故先に生まれた我らが貴様ら人間などに―――」
言い終わるより早く、男が動く。刹那、瞬き一つせぬ間にシェリスの眼前まで迫った。
「仕えねばならんと言うのか!!」
言葉を吐くのと同時にシェリスに向かい拳を振るう。しかし―――
「!!」
その瞬速の攻撃を、更なる瞬速でシェリスは腕を出しそれを受け止めた。
だが、勢いまでは押さえ込めきれない。そのままの態勢で地を滑り、男との距離が開いていく。
勢いが止まった時には男との距離はシェリスが地表に降り立った時と同じ程広がっていた。
シェリスが腕を下げ、男を見据える。
「それが『あれ』を盗んだ理由か」
依然声に感情はなく、表情も攻撃を受けた後にも関わらず全く変わらない。
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