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この世は腐っている。少なくとも俺が見ている世界は。
気に入らないからと暴力を振るい金を巻き上げる上級生、それを見て見ぬふりをする大人達。巻き込まれるのを恐れ俺を遠ざけるクラスメイト……。
何故俺だけがこんな思いをしなくちゃいけないんだ……。
俺だってこんな容姿になりたくてなった訳じゃない。
それなのに、どいつもこいつも俺のことを攻撃する。
力が欲しい。あいつらを潰せるくらい――――いや、この世界を滅ぼせるほどの力が。
そうすれば、誰も俺を攻撃するやつはいなくなる。
そうすれば、俺は苦しい思いをしないですむ。
そのための力が――――
力が、欲しい…………。
「ん……」
俺の意識が覚醒した頃には、既に日は傾きつつあった。どうやら知らないうちに眠ってしまっていたみたいだ。
座っていたベンチから立ち上がり、体の動作確認をしてみる。
(痛みはまだ残っているけど、大分楽になったか……)
3時間ほど前、俺は上級生数人に校舎裏に連れられ、そこでふくろにされた。
もちろん抵抗はしたが、一人で勝てるはずもなく、さんざ殴られたあと金もすられた。
いつものこととは言え、腹が立つ。何故俺がこんな目に遭わなければならないのか。
―――いや、考えるのはやめよう。考えてもそれが変わるわけじゃない。
「帰ろう……」
今から帰れば夕飯には間に合うだろうか。そんなことを考えつつ、俺は痛みに耐えながら家を目指し歩き始めた。
家の近くの通りに着いた頃には既に空は暗くなっていた。
時刻を確認すると6時30分―――さっきから1時間以上経過していた。
俺の家は町から離れた場所に建っている。それには理由があった。
世間一般で言う豪邸に位置する、つまりは金持ちの家。それが俺―――三浦淑矢という人間の帰る場所。だが、そこは本当の意味での『我が家』ではない。
俺は物心つかない頃に三浦家―――三浦源蔵に養子として引き取られた。
だが、それだけだ。
家業を継ぐための勉強はさせられているものの、源蔵本人とは今まで一度もまともな会話をしたことがない。
親らしいことをしてもらった覚えはないし、俺だってあれを親だと思ったことはない。
結局、引き取られたのは自分の後継ぎが欲しいがためだ。
この世界に俺の居場所はない。家も、学校も、どこも……。
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