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この世界には、いいことなんて存在しない。嫌なことばかりだ。
(こんな世界――――)
(壊れてしまえばいい……)「壊れてしまえ……か?」
「!?」
突然聞こえてきた声に体が跳ね上がる。振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
闇を吸い込んだかのような漆黒のスーツに白の長髪。そして、鮮血を思わせるような紅い瞳。
(なんなんだ、こいつ……)
その男に見覚えはなかった。いや、それより―――
(俺の心を……読んだ……?)
こいつが俺に話しかけた時、確か「壊れてしまえ……か?」と言った。まさかそれが挨拶というわけではないだろう。
俺は確かにその言葉と同じことを思った。だとしたら、やっぱりこいつ……。
戸惑う俺をよそに、男はいきなり顔を近づけ目をのぞき込んだ。そして―――
「いい目をしている。清らかに濁った……まるでこの世全てを恨んでいるような目だ」
意味深な笑みと共に、俺の心の中の思いを口にした。
「!?」
そのあまりに的を射た言葉、そして、まるで見つめたものを切り裂かんばかりの鋭い血眼に、恐怖で声すらでなくなる。
そんな俺を見て満足したのか、男は顔を離す。
そして、予想もしなかったことを口にした。
「力が欲しいか?」
「ふぅ……」
ベッドに力無く倒れ込む。
疲れた―――というより、緊張から解放されたといった方が正しい。
「力、か」
あの男の残した言葉を呟き、ポケットからある物を取り出した。
水晶。それも、漆黒の。
力が欲しいか?
男の問いかけに初めは躊躇したものの、俺はその首を縦に振った。
すると、血眼の男はこのクリスタルのペンダントを手渡し、どこかへと去っていってしまった。
あいつは一体何者だったのか。何の目的があって俺に近づいたのか。その答えは俺にはわからない。
「これが……力だっていうのか?」
漆黒のクリスタルをかかげ、見つめる。
あの言葉の後にこれを渡したということは、やはりこれが『力』ということになるのだろう。しかし、どうも信じられない。
単なる戯言。そう言ってしまえばそれで終わりだろう。しかし、あの男にはその言葉が真実だと思わせるだけの迫力があった。
(あの威圧感は、まるで人間じゃないみたいだった)
血眼の男を思い返しながらクリスタルを指で弄んでいた、その時だった。
「ん?」
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