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朝。部屋全体に機械音が響き渡る。その音で俺は目を覚まし、また一日が始まったことを知る。
普通の人間なら目覚めは心地よいものなのかもしれない。だが――――
「また……一日が始まったか……」
俺にとっては苦痛でしかなかった。
顔を洗い終わり、眼前を見据える。前髪から滴り落ちる水滴。その向こう側に、鏡に映る自分の顔があった。多少面影はあるものの、日本人とは異なったその顔立ちに、オリーブグリーンの瞳……そして―――
「……っ」
この、蒼い髪。これなら誰が見てもわかるだろう。
俺は日本人じゃない。
望んだわけでもなく外国に連れてこられ、そのせいでのけ者にされ……。
「この世界は……腐ってる……」
虚空に向かって吐き捨てる。そんなことをしたからといって、何かが変わるわけでもない。しかし、そうわかっていても苛ついた心を抑えきれず、心のままに口にした。
そんな腐った世界を映し出している鏡の中で、俺の首にかかった漆黒のクリスタルだけは何故か輝いているように見えた。
教室のドアを開けると、入るまで聞こえていた話し声が消え、一気に静まり返った。
「……」
そんなクラスメイト達を無視して自分の席へと向かう。
俺が席に着くと、話をしていた数グループが小声でひそひそと話し始めた。
大方俺の陰口でもしているのだろう。
いつものことだ。気にするほどのことでもない。
そんな中、一人の女子が俺の元へとやってきた。
「おはよ、三浦君」
女子にしては少し高い身長に、茶色い長いストレートの髪。
彼女―――嘉川美紗はこの学校で唯一自分から俺に話しかけてくる『変わり者』だ。
別段小さい頃からの知り合いというわけでもない。初見は高校だ。
にも関わらず、彼女は何の躊躇もなく、まるで親しい友達のように話しかける。
何か目的があって俺に関わってくるのか。最初はそう思ったが、今まで何かあったわけでもないし、そういったような素振りもない。
まるで、本当に友達と接しているかのよう……。
「……ああ」
彼女の真意がわからないため、俺はいつもぎこちない対応を取ってしまう。
慣れない。今までこんな風に他人と対話することがあっただろうか。
もしかしたら嘉川が初めてかもしれない。
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