月と少年

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 ライムスさん一家がこの村に越してきて一週間が過ぎた。 デディさんやサマンサさんはその見た目と同様にとても穏和で優しい人達だった。 すぐ村の人たちとも親しくなり、もう立派な村人の一員である。 そうそう、この間魚を捕りすぎたとかで魚を少し分けてもらった。今度何かお礼をしなければならない。 この一週間で解ったことは他にもある。ナナウィのことだ。 デディさん一家が越してきた日、街に行きながら 「ナナウィちゃんか。大人しそうな娘に見えたな。」 とか。考えてたけど。 ちょっと、 いや結構ちがった。 「なにぼ~っとしてんの!ルウ!」 あの澄んだ瞳からは相手を敬う少女を連想させ、一本一本が輝いて見えたあの黄金色の髪からは物静かな一国のお姫様を伺わせたのだが。 事実は違っていて、言葉遣いには少し棘があったり 性格はとてもじゃないが物静かとはいえず、 いわゆるおてんば。 ツンデレ でも、 それでも恋はするもので。 初めて出会ったあの日から僕の頭の中はナナウィで一杯だった。 自分でもすぐにわかった。これが恋というものなのだと。一目惚れをしちゃったんだなと。 自分自身の気持ちの整理にそう時間は掛からなかった。 今、彼女は僕の家で本を読んでいる。 元々この村は人が少なく、若人が特に少ないためかナナウィが僕の家に来ることはちょくちょくあった。 仕事が終わる時間を察したらしく家に帰ってくるタイミングでいつも彼女が顔を出す。 いつも迎えてくれる人が誰もいなかったからこれはかなり嬉しい。  彼女は例の小説に興味を持ってくれているようで家に来ては必ず読んでいる。 『月の国』 最初は「貸すよ?」 って言ったんだけど 「家で読むと寝ちゃいそうなのよね。」 って。 まぁ。 来てくれることは嬉しいのでこれはこれでいいけど。 「どのくらい読んだの?」 「半分くらい、かな。」 「ならやっぱり貸すよ。半分くらいならゆっくり読んでも半日もかからないしさ。」 「いいんだってば。それよりさ、この小説、挿し絵綺麗だよね。」 「やっぱりそう思う?月の絵が綺麗でさ。だから買ったんだ、この本。」 「それだけぇ??内容も面白いじゃない。」 「そうかな?内容よりやっぱ絵だよ。この本。えーっと、あっほら見てこの綺麗な満月の絵!」 しおりをはさんでいた
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