月と少年

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 僕は満月を見たことがない。 いや、見たことはあるのかもしれないが記憶にない。 物覚えが悪いわけではないし、自分が小さかった頃のことだって覚えている。 満月以外の姿をしている月だって鮮明に記憶している。 けど。 満月だけ記憶にない。 だから見たことがない。 いつも不思議でたまらなった。 満月を見たことがない。 それは僕にとって無性に悔しい事でもあった。 月に魅入られて、心の底からそれを愛しく想っていた自分にとっては悔しい事でしかなかった。 窓から淡い月光が射す真夜中、僕はベットに仰向けになりながらそんな事を考えていた。 今日もまた綺麗な月だ。 でも明日になればもっと美しい月を見れる。好きな人と、一緒に。 ああ、考えただけで目が冴えてくる。 眠れなくなってくる。 体の中が熱くなってくる。 心臓がドクンドクン跳ね上がってくる。 しまいには頭がくらくら目眩まで。 どうなってんだ?僕の体。 自分自身に呆れながらもこのまま起きていても意味はないし、いや月は見ていたいけど、でも今は明日に備えて早く寝ないと。万が一ナナウィと二人きりのとき寝ちゃうだなんてなったら…。 マイナス思考たる想像は途中でやめて、ベットの掛け布団にくるまり。 … 瞼をとじて。 …トクン トクン 心地よい太鼓のような、黒い心臓の音が、僕を深紅の夢の中へ招き入れた。
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