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辺り一面、砂、砂、砂
そんな砂漠地帯に出来たオアシスを囲むように、一つの王国があった。
交易路の拠点として栄え、物資にも事欠かず、基本的には平和な王国である。
そう、基本的には。
「あ~るぅ、やめようよー」
この砂漠において、最もふさわしくない毛並、歩く度もふもふと揺れる尻、そして何より自然界においてあり得ない色素、
“それ”一般にパンダと呼ばれるであろう生物が必死に少女の後を追っていた。
「うっさいよ、わたしは行くって決めたの」
「王様に怒られるよー」
尚もしがみつく“それ”を振り払うように足を早めつつ、言葉を続ける
「パパは関係ないでしょっ!!不安なら帰んなっ!!」
遂に少女は走り出してしまい、悲痛な声をあげた“それ”はまろびつつも、後を追って行った。
「って事もあったよね、」
一転して、岩肌が露出し、肌が泡立つ程冷気に満ち満ちた洞穴、風の通り道か、それとも餌を求めた獣の呻きか、低い唸り声が耳元を撫でていった。
「あぁ、パンダの情けなストーリーね」
目深に帽子を被り、ジャケットを羽織った少女の軽口が応える
「パンダじゃないし!聖獣だから!!」
高めの少年の声が辺りに反響し、湾曲し、止まった。
身体にまとわりつく冷気が、とたんにより一層鋭さを持つ。
「あーぁ、気付かれたじゃない」
残念そうな口振りとは裏腹に、その黒瞳は期待と好奇心に煌めいた。
「ほら、餌になりたくなかったらわたしに付いてきな!」
轟く咆哮の中、一人と一匹、奇妙な組み合わせは、臆する事なく飛び込んで行った
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