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それから長い長い月日が経ち、俺は敦兄が進むはずだった大学へ進学を決め、高校卒業を迎えた。
あれから敦兄とは一度も会っていない。
ただ毎月届く手紙だけが敦兄の存在を示していた。
暑い夏も、凍える冬も、いつも俺は敦兄の影を心で追い求めた。
三度目に体を合わせた時、一体俺はどんな気持ちだったのか。
敦兄は何かを確かめることが出来たのか。
今となっては知る術は無かった。
ただ俺の敦兄に対する想いは、どろどろとした深い闇ではなかった。
俺を見つめる敦兄の瞳は、真綿の様に柔らかかった。
そこには確かに愛があったんじゃないだろうか。
互いに互いを愛しく思ったんじゃないだろうか。
最後にくれた優しい笑顔が。言葉が。
今も俺を捉えて離してくれない。
あの小さく揺れる16本の蝋燭を吹き消す時、願い事を忘れていた。
今からでも遅くないなら、どうかこの願いを叶えてほしい。
もう一度敦兄に会いたい。
END
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