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答えられないでいる俺に、敦兄は再び話し始めた。
「俺はどうしてあの日、お前を抱いたのか自分でも分からない。
ただ何かを確かめたくて…」
そこまで言うと敦兄は黙り込んでしまった。
ちらりとそちらへ目をやると、敦兄も気付いたのか目を合わせてきた。
「でも…あんな酷いセックスじゃ何も分からない。そうだろ?竜二」
一度合わさってしまった互いの瞳は、もう外すことが出来なくなっていた。
敦兄…それってどういうこと?
何を確かめたかったっていうの?
見つめていた敦兄の目が不意に近付いたかと思うと、唇が僅かに触れ合った。
敦兄の考えてる事が分からない。
いつも遠くに感じるのに、気付けばあまりに近い所にいる気がするんだ。
春の風の様なその笑顔が俺の心を揺らしたように、敦兄の心は少しでも揺れてくれていたの?
その日敦兄は、ゆっくり、ゆっくり、驚く程優しく俺の体を抱いた。
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