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「父さんも母さんも薄情だよな」
夏休みに入ったある日、いつもの様に敦兄と二人、母が作り置いていてくれた昼食をとっていた時、そんな言葉を投げ掛けられた。
「どうして?」
何の事を言っているのか俺には分からず、素直にそう返した。
「今日も帰ってこないんだろ?二人共」
「そうみたいだね」
敦兄はこちらには目を向けず、テーブルに並ぶ料理を口に運びながら話す。
この話がどこに向かっているのか分からないまま相槌を打っていたが、次の一言でようやく理解した。
「俺だけでも祝ってやるからな」
あぁそっか…今日俺の誕生日だっけ。
「じゃぁ俺JDのブレスが欲しい」
「却下!たけぇよ!」
頭を小突かれ、『夜には戻るから』と家を出ていく後ろ姿を見送った。
敦兄が俺の誕生日を覚えててくれた。
その事がたまらなく嬉しくて。
心臓があったかくなる様な、締め付けられる様な、不思議な気持ちだった。
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