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「千尋」
綾が私を呼ぶ。
「もうやめろ。もういいから」
私をいさめる様な、でもとても優しい声。
「よくない」
私はぼそりと呟く。
「これはもう俺が自分で決めたことなんだ。わかるだろ?」
「わからない!」
私はぎゅっと目をつぶり、綾を怒鳴った。
「綾はいつもそう!
一人でなんでも決めちゃって!勝手に私を振り回して!
強引で意地悪で自分勝手で!」
「……」
続けざまに言われ、綾が閉口する。
私は閉じていた瞳を開いた。
頬に熱い水が止めどなく流れる。
それを止める事もせずに、私は綾をそのまま見返した。
「…でも。
そんな綾が好きなの。
私はそんな綾だから好きになったの」
綾がガタンとマイクを倒した。
その顔に、その目に浮かぶ柔らかな光。
「…お願い。
もう私を一人にしないで…
これからも綾の横を一緒に歩かせて…」
涙で詰まる愛の言葉。
私は胸にやどった小さな願いを綾にそっと告げた。
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