滞納

1/4
前へ
/67ページ
次へ

滞納

部屋のチャイムがヒツコク鳴る。 (安眠妨害なんですけど…。) 通信販売で何か買った覚えもない。 チャイムの次はノック攻撃。 (なんなの?!) 私は玄関のドアにチェーンをかけてから扉を開けた。 一人暮らしの女の常識です。 用心深く扉を開けたら、 エンジ色のベレー帽に、 濃いピンクの口紅をつけた女性がいた。 「市役所の者ですが。」 と、名乗った。 …居留守にするべきだった。 国民健康保険料も、国民年金も滞納しまくってた。 イエ、そんな暇がなかったんです。 もちろん財布に余裕もなかったんです。 これから長ぁぁぁぁぁぁぁい期間をかけて払いますから!! の言い訳は不要だった。 「河西サンのお隣に引っ越して来る方について、お話があって参りました。」 「はぁ…。」 私がここに住んで3ヵ月。 不在だったお隣さんに誰かが引っ越して来る模様。 詳しい話は出来ないけれど、生活保護の必要な方が越してくるらしい。 何かあった際の生活安全課までの連絡先を渡された。 そんなのが必要な人って何? 要件はそれだけ。 ヨカッタ。 税金滞納の取り立てじゃなかった。 「ご挨拶だけ宜しいかしら。」 と安全課の鈴木サンが言った。 私は一旦玄関の扉を閉めてチェーンを外してから、扉を大きく開いた。 隣人さんは男性だった。 挙動不審。 モジモジしてるから、こっちまで動揺する。 見合いじゃないんだから。 そんな二人を鈴木サンが慣れた様子で紹介した。 「佐久間蓮さん。」 と、ポケットに手を入れたままのサクマレンさんを前に押し出した。 私も鈴木サンの視線に促されて、 「河西蘭子です。」 と名乗った。 今後、会う事もナイと思うんだけど。 ‘地域密着!!ご近所サン同士に昔ながらの繋がりを’ 運動が盛んな地域に引っ越してきたから仕方ない。 安全な感じがして引っ越して来たけど、 やたらゴミ拾いだのカラオケ講習会だの興味を全・く、そそられないイベント(未満)が多い。 もちろん1回も参加した事がない。 回覧板は仕方なく回す…。ってか、玄関に立て掛けておく。 盗む人もいないでしょう。 私は夜の仕事だから、土日の午前中は爆睡してる。 だからお隣さんとも、きっと最初で最後の挨拶。 (下着、盗まないでよね。) 眉毛を描いてない、マロ蘭子の癖に厚かましく心配して た。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加