兆し─Ominosus─

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     ──翠海に浮かぶ孤島、巨岩の地〈サンクタス〉にジン・スレイマンはいた。      島の頂き近くで揺れる黄金色の草原から、ジンは海岸線の彼方に広がるあざやかな翠海を眺めていた。  背後には古く、しかし神秘を孕んだ遺跡が構えており、それを讃えるように巨岩たちが地面から天を衝(ツ)いて生え出てている。西に聳える断崖は海鳥たちが落とす糞で白く染まっていた。     「そろそろ……来る頃か」       誰に言うでもなく独りごちる彼は、浅黒く陽に灼けた肌と力強く幅広い肩を持っていた。    巌を削ったような上半身は素肌を晒しており、黒い薄布と鉄の籠手が右腕をおおうだけで他には何もない。胸元から腕にかけては、見る者の目を奪う刺青が深く刻まれていた。  まぶしい太陽の光にも似た鋭い瞳には、眼下に手足を広げる雑木林が映されている。    巨大な岩石に座る彼の荒々しい黒髪が、びゅうと吹いた風に揺れた。      そして、ジンがおもむろに腰をあげた次の瞬間──耳朶を激しく打ちつけるほどの爆発音が鳴り響いた。
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