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ふぅ。
煙突の中に潜り、煤を拭きながら、二つの鼻の穴からため息を逃す。
まさかお姉ちゃんの足の臭いだなんて、口が裂けても言えないわ。
ごしごしごし。
ごしごしごし。
朝は寝起きの悪いお姉ちゃんとママを起こして朝食の準備をして。
広い廊下や窓を磨いて、ママやお姉ちゃんの部屋を掃除して。
っていうか片付けても片付けても散らかるのは何で? 毎日あたしの知らないドレスや靴や、指輪が散乱してる部屋。
片付けのできないオンナはしょうがないなぁ。全くみんな、あたしがいなきゃ何にもできないんだから。
それから洗濯に煙突掃除に、馬の世話。
本当多忙だなぁ、あたし。
毎日充実してる。充足感ってこれのことかしら。
鼻歌を歌うには、調度良い場所。煙突の中に小鳥もびっくりの美声を響かせながら、あたしは気分良く煙突を拭いた。
ああ、声を出すって気持ち良いな。
毎日の、ささやかな楽しみ。
ときどき空の鳥たちが歌声で返してくれるのも、とても嬉しい。
普段はどっちかと言えば、聞き役なあたし。お姉ちゃん達の愚痴を聞くのは、あたしの役目。
あたしの愚痴を聞くのは、あなたたち――煙突と、小鳥たちの役目なの。
♪臭い靴下、お姉ちゃんの臭い靴下。ランランラン。
鼻歌に頭の中で適当に、歌詞を付けて歌う。
ちょっとイヤなことは、こうして歌にして吹き飛ばすの。
「フンフンフン。ランララ――」
あたしが歌うのをやめたのは、聞き慣れない男の人の声を聞いたから。
もう一人は、ママかな?
最上級の接客用、異様に高い声が響く。
何だろう――?
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