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選択肢は三つ。
一つめ、このドレスで行く。
二つめ、普段着で行く。
三つめ、優しい魔法使いが現れて、あたしのドレスを良い感じに仕立ててくれるのを待つ。
うん、三つめは何となく……ノリ。とりあえず意味分かんないから素早く削除。
残るは二つに一つ。
問題は、ドレスと普段着、どっちがあたしに映えるか。
色は、どれもススだらけで同じようなものだけど、洗ってある分普段着の方がちょっとマシかしら。……んなことねーな。長年のシミが。蓄積されたシミが。
まぁ似たようなものだわね。
デザインは、……うん。ドレスの方が、圧倒的に斬新スタイル。似合うかしら。
ごそごそごそ。
着替えた途端、あたしはごくりと唾を飲み込んだ。
びりびりに破けた肩の辺り、あたしのつるんとした、美しく白い肌が覗く。
ちょっ何これセクシー!
どうしようコレ! チャーミング王子様鼻血噴くよ?
広く開くことになった、鎖骨の辺りもなかなかどうして。
お姉ちゃん! デザイナーの才能あるかもよ!
あたしは若干興奮気味に、部屋のドアをバタンと開けた。
お姉ちゃんたちが体に刷り込んで行った、香水のどぎついニオイが鼻の穴をおもいっきり突いてくる。
その途端に何となく冷静さを取り戻して、膝から一気に崩れ落ちる。
どうしようコレ?
こんなセクシーな衣装、反則よね……その前にこんな斬新すぎるスタイル、認められるかしら。あたしだって認めるまでに、三分はかかったもの。
けれど、ぐずぐずしている時間はないの。なぜならもうパーティーは、始まっている時間だから。
――本当は、分かってるわよ。
だけどっ……!
何もできずに泣きべそかいて、家に込もって鼻水垂らしているだけなんて――そんな人初めから、王子様は見てくれないもの!
……あたしの良いところはなに?
笑顔でしょ、それから煙突の中で磨かれた澄んだ歌声と、家中の掃除を華麗にこなすことで手に入れたしなやかボディ、そこから繰り出される軽快なステップ……
たくさんあるでしょ? ママとパパからもらった美貌もなかなかだし。
自分の魅力を少しでも王子様に伝える努力をするのよ、シンデレラ! がんばれあたし!
羞恥心なんて、捨てた。
街中の人の視線を一身に浴びながら、ただあなたの元に走った。
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