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「えっと・・・・・・リンゴが5つと小麦粉が1袋か。・・・・・・パイでも作るのかな?」
メモを眺めながら石畳の歩道を走っていく。いつもの事だ。朝の散歩のように軽快に買い物を済ませ、帰ってくる頃には眠気はどっかに飛んでいるのである。
そうこうしているうちに歩道は視界の広がる広場に出た。ただし今の視界は市場店舗のテントであまり視界は良くない。
「リンゴは・・・・・・あ、あったあった」
紙袋にリンゴを入れてもらい、代金を払って小麦粉が辺りに売ってないか見回してみる。
――が、目当ての物は見つからなかった。その後も小麦粉を探して歩いたが、どこも売り切れだった。最近小麦は不作なんだとか。
「参った。マスターに怒られはしないだろうけどまさか何処にも売ってないなんて・・・・・・」
――と、足場に気をつけていたつもりだったが石畳の隙間に足を引っ掛けた。バランスが崩れ、紙袋が傾く。
「り、リンゴだけは―――っ!」
紙袋を体全体で修正し、全部が紙袋から転げ落ちる事はなかった。――が、ガツンと頭側面部を強打した。
「あぃだっ!」
そのために手元がグラつき、紙袋が傾く。
「あ」
ポロっとリンゴがひとつ紙袋から転げ落ちた。
下り坂の慣性でスピードの上がるリンゴ。フラつきながら追いかけるアルス。
だが転げるリンゴを拾い上げた人物がいた。
「あ、あの――」
「これ。お前のだろ?」
その人物は不恰好な十字架のようなものを布と皮のベルトで固定したものを地面に立てかけ、少し薄汚れたマントを翻し、アルスに向かって聞いた。
「あ、そ、そうです。ありがとうございます」
リンゴを受け取ろうとしたとき、マントの人物の手が止まった。
「……?あ、あの」
「お前……なんか面白い眼ぇしてるな」
「・・・・・・・・・・え?」
リンゴがアルスの手に渡った。
「ほら、また落とすなよ。大切なモンだろ」
「え・・・・・・あ、はい、あ、あの、ありがとうございました」
「いいってことよ。じゃあな」
マントの男は歪な十字架をヒョイと持つと、アルスとは反対側の方向に行ってしまった。
「・・・・・・なんだったんだろう?」
首を傾げたが、今は買い物を終わらせてマスターに謝るのが先だと考え、もと来た道を走って帰った。
「マスター。さっきのリンゴ、なんに使うんです?」
「お前のリンゴの皮むき修行だ」
「な、ナンダッテー!!!」
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