191人が本棚に入れています
本棚に追加
訓太は教室の床を上履きの底で、キュッ、キュッと擦りながら、説明を続けた。
興奮した時の訓太の癖だ。
「それから、事件や事故の記憶を良太郎が覚えていないと言うのは間違いだ。
記憶を忘れると言う表現は、厳密には正しくない。
思い出せないだけで、脳味噌の中の記憶は消せないんだ。
記憶を司る脳細胞をニューロンと言うんだけど、ニューロンとニューロンの間にはシナプスと言う神経で結ばれているんだ。
そのシナプスはね、記憶を反復して使わないと、細くなって切れてしまう。
逆に使えば使う程、太く切れにくいシナプスが出来る。
良太郎が事件なんかの記憶を普断思い出せないのは、記憶を反復していないからさ。
良太郎の記憶は、脳科学ですら解らない別回路を通って、無意識下で呼び起こされているんじゃないか?
断定出来ないけどね。今だに脳味噌の大部分は謎なんだよ。
動いているのは極一部で、その他の部分は何をするのか解らない」
しばらく何も言わないでいた。謎は少しずつ解けて行くのをかみ締めていた。
最初のコメントを投稿しよう!