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チャイムが鳴って、僕がベランダに出るまで一分も経ってないだろう。
だからダッシュでもしない限り、南棟のベランダに生徒の姿はないはずだ……
でもやっぱりなんか変だ。
いつの間にか、隣りに友人、須賀訓太が胡座をかいている。
「黄昏てるねぇ。失恋の痛手はまだ癒えてないのかぁ」
ゆっくりとした憎まれ口が、まだあどけない顔から笑いながらこぼれた。
こいつを心から憎めない自分が悔しい。
長い髪を右手で、右耳に引っ掛けながら、細い目をさらに細くしながら笑っていた。
「片桐チャン、星の数程女は居るが、惚れた女は一人だけってかぁ。渋いねぇ」
悔しいので言い返す。
「朝っぱらから黄昏たりしないよ、訓太。
黄昏時ってのは夕方を指す言葉だからね」
澄ました顔をした。
でも訓太は、生意気な理由知り顔で微笑んでいる。
「君の気持ちはお見通しだよぉ、良太郎。長い付き合いだからねぇ」
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